コードレス掃除機VC-CLW31
井崎 晃宏
本製品は標準質量*※1.0kgという野心的な軽さを目標に開発したコードレス掃除機です。実際に1.0kgの重量を実現したのは設計や開発チームの努力によるものですが、デザイナーとしては、「軽く感じられる重心バランス」や「軽さを感じられる見た目」の点からアプローチしました。
* 標準質量は本体・延長管・ヘッド・バッテリーの合計質量です。
軽く感じられる重心バランスを探る
コードレス掃除機本体で一番の重量物であるモーターとバッテリーの位置が、持った時の重量感を左右します。重心が手元に近い位置にある方が軽く感じられますが、単純に一番近い場所に配置するだけでは、見た目のスリムさが損なわれてしまいます。毎日使って頂く掃除機ですので、家事の負担はなるべく軽くしたい、さらに見た目の印象としても軽さを伝えたい。軽く感じられる構造物のレイアウトと、見た目のプロポーションの最適なバランスを探る作業から始めました。
軽さを感じられる見た目を工夫
見た目からでも1.0kgの軽さが伝わる工夫をデザインの課題としました。例えば同じサイズの四角い塊があったとして、角を丸くしたり面をとったり、わずかに曲面にしたりすることで陰影が生じ、視覚的なボリューム感を抑えることができます。余計なものをそぎ落とす考えで、絞り・削った造形から生み出される自然な陰影によってスリムに軽く見せています。
軽くてスリムだけどパワフルな「Lean」
スリムさを連想させるキーワードをいくつか抽出し、それぞれにデザイン案を作成しました。最終的に製品に採用された案のキーワードは「Lean(リーン)」で、健康的に、魅力的に引き締まったという意味があります。軽くてスリムだけど、決して華奢ではなく掃除機としてパワフルという表現です。3Dのデザイン案から簡単なモックを手作りで削って、見た目のボリュームがどうなるのかを確認しつつ試行錯誤を繰り返しました。スリムで軽く見える、でもチープには見せないという部分が一番注力したポイントです。開発初期に、この「Lean」というキーワードをプロジェクトメンバーで共有したことで、スタイリングから表面処理、カラーまで一貫した考えでデザインをすることができました。
軽いからこそチープさを感じさせない質感に
形状が決まったら最後に素材選び、質感の表現です。軽さの実現のため、延長管にカーボン材を採用しました。カーボンは、繊維を織り込んだような見た目も特徴的です。着色など余計な手は加えずカーボンの織目をそのまま活かすことで、軽さと丈夫さをストレートに感じられる仕上げとしました。また、プラスチックの光沢感を抑えるため、シボ加工でサラッとした質感のマット調の表面処理を施しました。掃除道具として信頼できる見た目に仕上げています。アクセントカラーとして採用したグランレッドは、光が当たっている部分に対し影の部分がより暗く・深みが出るようにし、立体感のあるカラーにしています。軽いけどチープではなく、軽いのに全体の完成度も高いと感じていただける製品を目指しました。
- ※JEMA自主基準(HD-10)により測定。
DESIGNER担当デザイナー
井崎 晃宏
私はクリーナーを始めリビング商品が主な担当ですが、最近はキッチン家電のデザインにも携わらせていただいています。東芝ライフスタイルの商品カテゴリーは幅広く、チャレンジする機会の多い会社だと感じています。商品が違えば当然、求められる要素も変わってきます。デザインとは広い意味で「情報を整理する事」だと考えます。ターゲットのニーズやユーザビリティ、製造上の制限、コスト面…それらは時折相反する条件にもなります。矛盾した制約の中でもベストな解決策へたどり着けるバランス感覚を大切にしながら日々デザインをしています。